世田谷区の産業、特徴は?世田谷の商業、工業、農業
住宅街が広がる世田谷ですが、実は事業所の数では渋谷区を上回るなど、企業も多数存在しています。今回は、世田谷にはどのような産業があるのか紹介します。
世田谷の昼間人口と夜間人口
東京23区では最も人口が多い世田谷区ですが、東京都が発表している「東京都の昼間人口」の統計によると、昼間人口は大きく減少していることが分かります。
この統計によれば、2010年の世田谷区の夜間人口は87万7138人と23区1位ですが、昼間人口は81万2810人となり、6万4000人減少し、港区、千代田区に次ぐ3位となります。夜間人口を100とした場合の昼間人口は92.7となり、23区でも増加率が高い順で並べた場合は16番目、23区内で昼間人口が減少している区は11区の中では8番目に減少率が大きく、昼間は多くの人口が都心へと通勤していることがうかがえます。
大学が多いことから区外から通う在学者も多いと見られ、区内へは杉並区、大田区、目黒区、調布市といった近隣の区から流入する人が多く、新宿区や中央区といった都心・副都心区への流出が多くなっています。基本的には仕事で流入する人よりは、仕事で流出する人が多い区ということにはなりそうです。
土地の使用状況
では、世田谷区内の土地はどのように使用されているのでしょうか。区では5年に一度、「世田谷区土地利用現況調査」を行い、その報告書を発表しています。最新の調査は2016年6月から12月に行われることになっており、こちらは2017年に公開予定です。そのため、現在公開されているものは2011年度の調査のものです。
土地利用は大きくは二つに分かれ、住宅のほか商業系や工業系も含む「宅地」と、道路や公園、農地、河川などを含む「非宅地」に分けられます。世田谷区は宅地が3857.2ヘクタールで66.4%、非宅地が1949.4ヘクタールで33.6%となっており、6割以上は「宅地」として利用されています。
次に宅地は、「住居系」「公共系」「商業系」「工業系」「農業系」に分けられます。世田谷区では、この中でも人が住む用地となっている「住居系」が2867ヘクタールで宅地の7割以上を占め、全体では49.4%と区内のほぼ半分が住宅となっており、広大な住宅地が広がっていることが分かります。次いで「公共系」が550.8ヘクタールと全体の9.5%(宅地の14%)を占め、そのうち約7割が教育文化施設と、学校関係が多くなっていることも見てとれます。
産業関係では、「商業系」が373.7ヘクタールと全体の6.4%(宅地の10%)を占めますが、工業系は63.3ヘクタールと全体の1.1%(宅地の2%)、農業系に至っては2.4ヘクタールと0.1%にも満たない数字となっています。産業としてはほとんどが「商業」となっていることが分かりまりす。ただ、その土地利用に関しては、産業関連をすべてあわせても公共系より少なくなっており、産業利用の割合は高くないようです。
「非宅地」は、「交通系(道路・鉄道)」「公園系」「農地系」「空地系(未利用地・屋外利用地)」「河川系」「緑地系(原野・森林)」に分かれており、最も多いのが「交通系(道路)」で1004.4ヘクタールと非宅地の5割以上、全体では17.3%を占めます。次いで公園系の327.2ヘクタールで全体の5.6%(非宅地の17%)、空き地系(屋外利用地)が232.5ヘクタールで全体の4%(非宅地の12%)と続きます。森林や原野、河川など自然が残る面積は全体のわずか2.1%となっています。
産業関係では、「農地系」が108.8ヘクタールと全体の1.9%(非宅地の6%)を占め、「空地系(未使用地)」(116.5ヘクタール)や自然面積とほぼ同じで、「交通系(鉄道)」(40.2ヘクタール)の約2.7倍となっています。
過去20年の変遷では、土地利用の全体の割合では大きな変化はありませんが、宅地では91年に361.9ヘクタールだった商業系は373.7ヘクタールと約4%増加する一方、工業系は123.2ヘクタールから63.3ヘクタールとほぼ半減し、農業系は11.0ヘクタールから2.4ヘクタールと8割近く減少しています。
非宅地では、農地系が251.1ヘクタールから108.8ヘクタールと6割近く減少しており、多くが住宅に転換されたと見られます。未使用地も150.5ヘクタールから116.5ヘクタール、森林も30.1ヘクタールから14.7ヘクタールへと減少しているものの、数字の大きさから見れば、農地の減少が大きくなっています。
地域別特性
世田谷、北沢、玉川、砧、烏山の地域別で見た場合、商業地の割合が最も多いのは、区役所がある「世田谷」地域と二子玉川や用賀などがある「玉川」地域で、それぞれ7.3%を占めています。北沢・烏山地域では5.7%となっており、多摩川・仙川・野川が流れ宅地の割合が最も低い砧地域で5.5%となっています。一方で、工業系の割合は区内のいずれの地域でも1.0%程度と大きな違いはなく、烏山で1.4%、砧で1.3%と若干高いぐらいです。農地系では、砧が最も大きい割合となっています
地域別の人口密度では、私鉄沿線の新宿・渋谷寄りの区内東部地域ほど高くなり、特に三軒茶屋周辺の三軒茶屋2丁目が1平方キロメートルあたり約28000人と区内でも最も高く、この周辺地域が区内で最高の人口密集地域となっています。商店も人口密度が高い私鉄の主要駅付近に集まる傾向があり、こういった地域が区内でも産業が発展している地域と言えます。一方、区内西部の成城や砧以南の多摩川寄りでは、人口密度は密集地の半分以下となり1万人を切る地域も出てきます。こういった地域では比較的大きめの住宅が多かったり、非宅地系の面積が多かったりと、産業地域とは異なった側面を見せます。
事業所数
世田谷区内の事業所数は東京都統計年鑑によると2014年には2万8994件でした。ピーク時だった1996年の2万9790件から年々徐々に減少し一時は2万4000件台まで減っていましたが、近年は増加傾向にあるようです。23区内では、港区(3万9375件)、中央区、千代田区、新宿区、大田区に次いで第6位となり、7位の渋谷区(2万8613件)を若干ですが上回ります。
一方、従業員数は28万8580人と23区内では第9位となります。事業所数では上回った渋谷区の従業員数は50万3767人(5位)と世田谷区の倍近くとなり、従業員が少ない中小企業が多いことが伺えます。従業員数を事業所数で割った1事業所あたりの従業員数は9.95人と、23区内では16位となり、他の区に比べても小規模な事業所が多いことが分かります。
従業員の男女構成では、世田谷区は男性15万1915人、女性13万6592人となり、女性の比率は47.33%と、これは23区内で1位の数字です。この数字には、住宅が多い世田谷では主婦のパートが多かったり、看護・福祉といった女性の割合が高い事業所が多いといった理由が想像できそうです。
23区の区別事業所数(事業所が多い順)
区名 | 事業所数 | 従業員数 | 1事業所あたりの従業員数 | 男性従業員 | 女性従業員 | 女性割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
港区 | 39375 | 1014842 | 25.77 | 659809 | 352884 | 34.77% |
中央区 | 37869 | 756052 | 19.96 | 466333 | 287169 | 37.98% |
千代田区 | 34250 | 1038143 | 30.31 | 658690 | 373028 | 35.93% |
新宿区 | 33602 | 693036 | 20.62 | 411226 | 280483 | 40.47% |
大田区 | 31432 | 375194 | 11.94 | 235228 | 139936 | 37.30% |
世田谷区 | 28994 | 288580 | 9.95 | 151915 | 136592 | 47.33% |
渋谷区 | 28613 | 503767 | 17.61 | 287194 | 212353 | 42.15% |
足立区 | 25887 | 236348 | 9.13 | 133141 | 102570 | 43.40% |
台東区 | 24446 | 246917 | 10.10 | 153973 | 92450 | 37.44% |
江戸川区 | 21840 | 196949 | 9.02 | 108413 | 88357 | 44.86% |
品川区 | 21609 | 412700 | 19.10 | 270364 | 141524 | 34.29% |
練馬区 | 21426 | 195639 | 9.13 | 104310 | 91266 | 46.65% |
杉並区 | 20592 | 173874 | 8.44 | 93694 | 80092 | 46.06% |
豊島区 | 19938 | 279586 | 14.02 | 163197 | 116306 | 41.60% |
板橋区 | 19343 | 213374 | 11.03 | 118796 | 94477 | 44.28% |
江東区 | 19112 | 375745 | 19.66 | 246841 | 128027 | 34.07% |
葛飾区 | 17953 | 142902 | 7.96 | 77526 | 65334 | 45.72% |
墨田区 | 16884 | 179072 | 10.61 | 106073 | 72690 | 40.59% |
文京区 | 14316 | 226335 | 15.81 | 135608 | 90711 | 40.08% |
北区 | 13701 | 142168 | 10.38 | 83012 | 58686 | 41.28% |
中野区 | 12917 | 128078 | 9.92 | 72560 | 55357 | 43.22% |
目黒区 | 12211 | 141132 | 11.56 | 76123 | 64705 | 45.85% |
荒川区 | 9899 | 85115 | 8.60 | 49801 | 35287 | 41.46% |
産業別割合
東京都統計年鑑での分類によると2014年、世田谷区の事業所のうち民間事業所は以下のように分類されます。(※印事業所の総数には公的機関も含まれるため、上の表の事業所数とは総数が異なります。)
産業大分類名 | 事業所数 | 従業員数 | 男性従業員数 | 女性従業員数 | 女性割合 |
---|---|---|---|---|---|
鉱業・採石業・砂利採取業 | 1 | 1 | – | – | |
農林漁業 | 53 | 291 | 219 | 72 | 24.74% |
卸売・小売業 | 7,253 | 59,223 | 30,191 | 29032 | 49.02% |
宿泊・飲食業 | 4,028 | 39,236 | 18,202 | 21034 | 53.61% |
不動産・物品賃貸業 | 2,934 | 12,835 | 7,910 | 4925 | 38.37% |
医療・福祉 | 3,032 | 39,809 | 11,479 | 28330 | 71.16% |
建設業 | 1,926 | 14,712 | 11,848 | 2864 | 19.47% |
製造業 | 872 | 6,866 | 4,390 | 2476 | 36.06% |
教育・学習支援業 | 1,218 | 21,963 | 11,530 | 10433 | 47.50% |
運輸・郵便業 | 541 | 13,946 | 12,490 | 1456 | 10.44% |
情報通信業 | 637 | 9,324 | 6,290 | 3034 | 32.54% |
金融・保険業 | 333 | 5,518 | 2,626 | 2892 | 52.41% |
複合サービス事業 | 93 | 1,654 | 1,004 | 650 | 39.30% |
生活関連サービス・娯楽業 | 2,807 | 14,894 | 7,078 | 7816 | 52.48% |
学術研究,専門・技術サービス業 | 1,486 | 7,902 | 4,759 | 3143 | 39.77% |
サービス業(他に分類されないもの) | 1,340 | 17,577 | 11,109 | 6468 | 36.80% |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 8 | 498 | 424 | 74 | 14.86% |
民間企業合計 | 28561 | 266248 | 141549 | 124699 | |
割合をグラフにすると以下の通りです。
世田谷区内の事業所のうち、4分の1が卸・小売業となっており、続いて飲食・宿泊業が14%、福祉・医療が11%と続き、この3つの産業で全体の半数を占めています。さらに不動産業と生活関連・娯楽が10%ずつで、この5産業で全体の7割となります。
区内の産業の大多数が、実際の生活に関連があるサービスを提供している企業ということになりそうです。
一方、従業員数別の割合でグラフにした場合は以下の通りです。
全体的に割合では事業所数の割合と大きな変動はありませんが、個別業種の数字では、「医療・福祉」「教育・学習支援」「運輸・郵便」「情報通信」の割合が大きく増えており、「卸・小売」が若干減少、「不動産・物品賃貸」「生活関連・娯楽」が大きく減少しているようです。
2006年から8年間の変動で見てみると、事業所数では全体で約1割程度増えています。特に「情報通信業」「不動産・物品賃貸業(※但し、2006年は不動産業のみ)」「医療・福祉」が大きく増えている一方、「運輸・郵便業(※但し、2006年は運輸業のみ)」が大きく減少し、「卸売・小売業」や「製造業」も減少しています。従業員数では、「宿泊・飲食業」が事業所数の伸びに比べて従業員数の伸びが大きいことが分かります。
産業大分類 | 2006年 | 2014年 | 事業所数変動 | 従業員数変動 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
事業所数 | 従業員数 | 男性従業員数 | 事業所数 | 従業員 | 男性従業員数 | |||
鉱業・採石業・砂利採取業 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | |||
農林漁業 | 49 | 416 | 324 | 53 | 291 | 219 | 8.16% | -30.05% |
卸売・小売業 | 7665 | 61550 | 33770 | 7253 | 59223 | 30191 | -5.38% | -3.78% |
宿泊・飲食業 | 3827 | 26099 | 13966 | 4028 | 39236 | 18202 | 5.25% | 50.34% |
不動産・物品賃貸業 | 2014 | 8324 | 5079 | 2934 | 12835 | 7910 | 45.68% | 54.19% |
医療・福祉 | 2298 | 30122 | 9020 | 3032 | 39809 | 11479 | 31.94% | 32.16% |
建設業 | 1812 | 14271 | 11655 | 1926 | 14712 | 11848 | 6.29% | 3.09% |
製造業 | 931 | 9571 | 6596 | 872 | 6866 | 4390 | -6.34% | -28.26% |
教育・学習支援業 | 1156 | 25070 | 13112 | 1218 | 21963 | 11530 | 5.36% | -12.39% |
運輸・郵便業 | 751 | 10735 | 9980 | 541 | 13946 | 12490 | -27.96% | 29.91% |
情報通信業 | 363 | 7711 | 5587 | 637 | 9324 | 6290 | 75.48% | 20.92% |
金融・保険業 | 259 | 5503 | 2439 | 333 | 5518 | 2626 | 28.57% | 0.27% |
複合サービス事業 | 103 | 2546 | 1656 | 93 | 1654 | 1004 | -9.71% | -35.04% |
生活関連サービス・娯楽業 | 存在せず | 存在せず | 存在せず | 2807 | 14894 | 7078 | – | – |
学術研究・専門・技術サービス業 | 存在せず | 存在せず | 存在せず | 1486 | 7902 | 4759 | – | – |
サービス業(他に分類されないもの) (※増減には、2008年には存在しなかった2分類を含む)" |
4780 | 33167 | 19069 | 1340 | 17577 | 11109 | 17.85% | 21.73% |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 14 | 994 | 783 | 8 | 498 | 424 | -42.86% | -49.90% |
総数 | 26022 | 236079 | 133036 | 28561 | 266248 | 141549 | 9.76% | 12.78% |